【建物散歩】原美術館

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東京品川・御殿山にある原美術館は、空間として絶品です。敷地に足を踏み入れるだけでインスパイアされるような建築です。

とても残念ですが、もう中に入ることも見ることもできません。これを書いている時点(2021年1月)で美術館としての役割を終え、閉館となるのです。その後は、この珠玉の建物も廃墟となるのでしょうか、取り壊されて、マンションにでもなるのでしょうか。

写真は2017年12月撮影)

上野の国立博物館本館や、銀座四丁目の和光、旧連合国総司令部(GHQ)でもあった第一生命館をつくった渡辺仁という名代の建築家が、実業家である原邦造という人の私邸として設計し、昭和13年(1938年)に竣工しました。

80年以上前のことです。改装や補修で手を加えても、躯体が老朽化するのも当然ですね。

この邸宅も戦後は進駐軍に接収され、原家に戻されたものの、10年以上も無住で廃墟同然に時期があったそうですが、改装して1979年に原美術館として開館しました。

その前後の事情、そしてこれからのことは、リンク先( 「美術手帳」WEB https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19057)で紹介されています。

   

えにも言われぬ温もりある光の入り方。時間をかけて作品を堪能しているうちに、窓やブラインド通して、光たちがさまざまな表情を見せて移動していく。それがまた、よいのです。

ここで写真展をした篠山紀信も、この美術館自体に刺激を受けて、この場所でヌードを撮影し、この場所で展示をしました。

私がかつて観た田原桂一という写真家(故人)は、自らの写真展開催時には亡くなっていましたが、死の直前まで何回もこの空間を訪れて、どの作品を、どこに、どのくらいの大きさや間隔で展示するか、練りに練ったと聞きました。その田原が対象として撮った田中泯も、会期中この美術館の中庭で舞踏を披露しています。

展示物と光と建物とアーティストの四元インスタレーション。それを惹起させる美の空間が今後どうなるのか、気になるところです。

ただ、美術館としての活動は、群馬県渋川市にある現在の施設を「原美術館ARC(アーク)」と名称変更し、コレクションとともに集約していくようです。

 

 

さて、以下は建物とは関係ない余談。

現館長の祖父でこの家を建てた原邦造という人は、東京ガス、日本航空の社長、会長、帝都高速度交通営団(現:東京メトロ)総裁などを務めた人ですが、その義父、原六郎がまた幕末から明治を生きたものすごい経歴の人物です。

原六郎は但馬国(現・兵庫県朝来(あさご)市)で鎌倉時代以来の旧家、豪農の出身。江戸・桶町の千葉重太郎の下で坂本龍馬と知り合い、その後高杉晋作、大村益次郎などと直接かかわり、戊辰戦争から始まって、榎本や土方とともに箱館戦争まで戦い抜き、維新後はすぐに留学して、アメリカ・イェール大学など米英で経済を学ぶこと約6年、帰国後、松方正義の要請で多くの銀行頭取などを務め日本の金融を牽引するとともに、全国多数の鉄道会社を設立したそうです。アメリカでは新島襄と知り合い、帰国後は渋沢栄一や岩崎財閥一族らと同志社設立に寄与。この数行だけで息が詰まるような密度高い人生ですね。龍馬・晋作、新島襄、渋沢栄一って・・・大河ドラマを渡り歩いてる?!

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たけぞーです。建築好き、写真好きです。
このブログも、両方の要素がクロスすればいいな、と立ち上げました。
たけぞー(takezo)が街を歩きまわるから"take-a-walk"なのです。
現在はビル設備管理の仕事をしつつ、家族が営む不動産事業をサポートしています。

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