前の記事からの続き (*上の写真は、停電になっていない時のマンションの姿)
武蔵小杉駅周辺の、いわゆるタワーマンションは現在11棟。そのうち駅前の1棟で、台風による浸水から1週間たっても停電が続き、復旧のめどが立たないと事態がありました。
「47階建て1500人が暮らす」と報道されているこのマンション、地下3階にある電気設備(下の写真のような盤)が水没したために、電気を供給できないでいました。
電気がないと・・・
ポンプが動かないから地下の受水槽から各戸に水を送り込めない。水が出ないから炊事やトイレで水を流せない。冷蔵庫が使えないから食材を買い出しせざるを得ない。エレベーターが動かないから水や食料を階段で運び上げねばならない。ゴミもエレベータで下せないから自力でゴミ置き場に運搬する。非常階段も廊下も部屋の中もまっ暗。ガスは来ているが換気扇などが動かないし機密構造だから火を使う調理は重ねられない。もちろん風呂やシャワーも使えない。
一戸建てであっても(たとえば千葉の人々も同様の不便さの中でかなりの期間を過ごされたはずで)大変なことですが、40階まで一日何回も真っ暗な階段を上がるなど、考えただけでも怖ろしい。
大きなビルには「自家用発電機」があるではないか、という人もいるでしょう。確かにバカでかいエンジンに発電機が直結しています。
しかしそれは、ほとんどのビルの場合、「火災時」の、せいぜい数時間…住民が逃げ終え、消防隊が鎮火するまでのわずかな時間のわずかな機器の電源しか想定していません。消防隊がホースや救助用資材を運び上げるのに使う「非常用エレベーター」(非常用といっても基本的には逃げるためには使えませんから!)や消火用ポンプ、スプリンクラーポンプ、排煙装置(大型のファン)、ビルの防災上の機器監視盤・操作盤などに優先的に供給され、各戸の照明や給水にまで回る分はありません。そしてこうした機器もまず地下室にあるのが常・・・。
さて、そんなに大切な電気設備をなぜ地下に?と考える人もいるでしょう。しかし、1階以上のフロアはそれだけで何億もの価格で売れるのです。悪気ではなく、「裏方」の電気設備に「陽の当たる場所」を与えることはできない、というのがマンションのデベロッパーをはじめ、設計・建設会社の「あたりまえ」なのです。
本来は、土地の歴史を読みとって、洪水や土砂くずれなどの危険を最小限に留める開発設計に始まりますが、ふつうの人がマンションに関わるのは、入居後のこと。管理会社だけでなく、住民自身が(管理組合などの場で)住まいの周囲に潜むリスクを洗い出し、即応できる準備を整えることに尽きます。(「想定外」などと暢気な言葉は、原発事故で聞き飽きましたね。)
どこか遠いところの話ではありません。今回、武蔵小杉は「堤防の決壊」ではありませんでしたが、日本ではこの数年でも茨城、九州をはじめ、今年の長野(千曲川)や福島・宮城(阿武隈川)など、非常に多くの水害を経験するようになってしまいました。
大きなビルでは、日常レベルの雨水や湧水は地下に一旦貯めて、少しずつポンプで汲み出して放流(下水へ)するしくみになっています。しかし、地上の水位が上がっている状態だと、ポンプの能力を超えてしまい、外から強力なポンプで吸い出さない限り解消できないのです。
ある施設で設備管理を仕事にしている者(私)にとっては、こんな光景は絶対に見たくありません。
「止水」も手軽なのから重装備まで、いろんな設備がありますね。
今回の浸水事例からネットを探索し、次のような記事を見つけました。個人宅でも簡単にできそうな、ゴミ袋とダンボールとブルーシートさえあればできる方法も載っていました。みなさんのお宅やお店でも検討の余地はありますよ。
浸水被害は入り口で防ぐ シートや防水板で隙間解消 [日本経済新聞夕刊2015年8月12日付]https://style.nikkei.com/article/DGXKZO90411640R10C15A8NZ1P01/