【建物散歩】耕雲館

ヴィンテージ

コロナ禍中にある2021年の箱根駅伝は、駒澤大学の13年ぶり7度目の優勝となりました。駒澤大学は、東京都世田谷区駒沢にある、仏教系(禅宗)の私立大学です。

調べてみて、駒沢の地名は、このあたりの旧地名である上馬・下馬・野沢・深沢(今でもそれらの町名はあります)を「かけあわせた」ものだと初めて知りました。その下馬から目黒川にかけての地域、現在は自衛隊病院のあるあたりは、明治のころ練兵場があったので、きっと軍馬に由来するものと勝手に思っていたが・・・違いましたね。ま、それは余計な話。

 

駒澤大学キャンパスのほぼ中央に、どこから見ても美しい小振りな建物があります。

近年完成したばかりの巨大な新館「種月館」と向かい合って、昭和3年から慎ましく建っている「耕雲館」がそれです。

いずれも禅のことば「耕雲種月」(こううん・しゅげつ=*)から採っている名です。

昔の新橋演舞場や銀座のサッポロライオンビヤホールを設計した菅原榮蔵の作品。

曹洞宗の学び舎『旃檀林』の学寮時代からの歴史を古い起源とし、関東大震災復興事業として、大正14年の大学昇格にあわせたキャンパス整備の一環で、図書館として誕生しました。1999年に東京都選定歴史的建造物に指定された後、現在は「禅文化歴史博物館」として建物の内外が公開されています。

直交する壁で中央の吹抜けホールを囲む、いわば屏風を立て回したような外観が特徴ですが、これは関東大震災直後の建設であることと、内部に柱が無いホール構造なので、壁面で十分な強度を保つ構造設計をしたからといいます。

 

 

 また、意匠設計では、構造上の直線の多用に合わせ、ファサードのアーチが曲線ではなく直線になっていることも特徴の一つですが、当時もてはやされたフランク・ロイド・ライト風の外壁(実際、帝国ホテル旧館に使われているタイルと同じ意匠、釉薬だそうです)、ホール内の軒装飾、小窓一つに至るまで、美しさへの眼差しが行き渡っていて、直線の強さより、全体に柔らかさすら感じます。

もちろん建物だけではなく、博物館としての禅文化と歴史の展示も見応えがあります。

小学生のころ「どうげんは曹とう宗、えいさいは臨ざい宗」と丸暗記した程度、永平寺に観光に行った程度にしか禅のことは知りませんが、「一期一会」や「日日是好日」など禅のことばやこころは日本文化のあちこちに生きていることを実感できます。

私は、行雲流水で、ちょっと、銀座のライオンビヤホールに呑みに行きたくなりました。

*注:ちなみに「耕雲種月」とは、雲を耕し、月に種まくように、高い理想を掲げ、地道に生きて行くことの価値を表したものとか。私には無理です。

ヴィンテージ建物散歩

たけぞーです。建築好き、写真好きです。
このブログも、両方の要素がクロスすればいいな、と立ち上げました。
たけぞー(takezo)が街を歩きまわるから"take-a-walk"なのです。
現在はビル設備管理の仕事をしつつ、家族が営む不動産事業をサポートしています。

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